エジプトのミイラづくりの作業場としては最大規模が発見!ミイラはなぜ作られたのか?
死者の国があると信じた古代エジプト人
■ミイラ作りのもととなったオシリス神話とは何か
オシリス神話は、古代エジプト神話の中で最も知られ、国王たちが自らの神話化のためにも、しばしば利用してきたものだ。
オシリス神話にも様々なバリエーションはあるが、ギリシャのプルタルコスが伝える所を要約すると次のようなものだ。
オシリス王は弟のセトと、イシスとネフティスという2人の妹を持つ。
名君としてエジプトを統治していたが、嫉妬した弟のセトはオシリスを箱に閉じ込め殺し、河に投げ込む。箱は地中海に流れ出て、シリア海岸のビブロスに流れ着く。イシスはそれをつきとめ、箱を取り戻し、復活したオシリスとの間にホルスという子供を産む。
しかしセトは再度オシリスを殺し、今度はその遺体を切り刻みバラバラにすると、エジプト中にまき散らしてしまう。
するとイシスは再び国中を歩き、オシリスの遺体を一片ずつ見つけて行く。
そのたびに見つけた場所に墓である神殿を建て、ついにかつて地上の王であったオシリスが、今度は死者の国の王となったというものだ。
ここで重要なのは、オシリスが死者の国で復活して、永遠の王として生きるということ。こうした神話にもとづき、古代エジプト人は来世を信じ、時間や労力、財産も惜しみなく使い来世のために備えたのだ。
■カーを引き止めるため肉体のミイラが必要だった
さらに『死者の書』では、当時のエジプト人たちが人間の持つ霊魂というものを、3種類あると考えていたこともわかる。
ひとつ目は、《カー》と呼ばれるもの。これは極めて人間的で個人的なものだ。人間作りの神クヌムが、ひとりずつ人間を作る際に生み出す霊魂である。
2つ目は《バー》と呼ぶもので、肉体とカーが一体となった時に現れ、日本人が一般的に考える霊魂に近いと思われる。
そして3つ目が《アクー》であり、これは神と人間との間を仲介する超自然力を持つ。肉体は地上に属するが、アクーは天に属している。
そしてこの3つの霊魂を持つ人間が死ぬと、天に属するアクーは朱と鷺きとなって飛び去ってしまう。バーは黒いコウノトリ(第18王朝以後は、しばしば人間の頭をした鳥)となって、これも飛び去ってしまう。さらにカーも肉体と共に消えてしまう。しかし古代エジプト人たちは、熱烈に生命の不滅を念願し、信じていた。そこで個々人の生命力である霊魂のカーを、なんとか肉体に引き止めておこうとした。そうすれば、カーと関係が深いバーもあまり遠くへは飛んでいかないと考えた。それがミイラ作りの目的となったのだ。
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『教養としてのミイラ図鑑 ―世界一奇妙な「永遠の命」』
著者:ミイラ学プロジェクト
「死」を「永遠の命」として形にしたミイラ。いま、エジプトはもちろん世界各地で、数多くのミイラが発見されており、かつミイラの研究も進んでいる。実は知っているようで知らないミイラの最新の研究結果とこれまでにないインパクトのあるビジュアルで見せたのが本書。高齢化社会の日本ではいま、「死」は誰にとっても身近にして考えざるを得ないこと。「死」を永遠の命の形として表したミイラは私たちに何を語りかけてくるのか? 人気の仏教学者の佐々木閑氏、博物館学者の宮瀧交二氏、文化人類学に精通する著述家田中真知氏の監修と解説とコラムで展開する唯一無二の「中学生から大人まで」楽しめるミイラ学本。